石坂税務会計事務所

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シャウプ勧告

シャウプ勧告はなぜ「勧告」なのか?

大泉学園での仕事の合間、隣市の和光に税務大学校があり、そこの租税資料室に行く 機会を得た。「シャウプ勧告」が展示されていると聞いたから、実物が見たくなったの だ。

「シャウプ勧告」。とりわけ「勧告」というと、時代を感じさせる和訳だが、その英 文のタイトルは?・・・

SHAUP REPORTかと思っていた。通常訳なら、「シャウプ報告」であろう。

正しくは、REPORTED ON JAPANESE TAXIATION BY SHAUP MISSION だった。小 さな図書で、ガラス越しだと読みにくい。
MISSIONとは使節団と訳すべきなのだろうが、「使命」という語感がある。この語に 戦後の混乱期をどうにかしたいという、何か意気込みが感じされられる。

第一次と第二次のものがあるが、展示されていたのは第一次のほう。全4巻。それぞれ がB5版の、高さ3センチくらいのけっこう厚い冊子だった。まっ白く、硬そうな紙質 。当時としては高価だったのではないか?
これが発表されたのは昭和24年だが、同じ年にすでに「シャウプ勧告を知っていま すか?」という多色刷り解説パンフも国税当局により作られている(それも展示されて いる)。当時の日本人がほんとうにその内容を分かっていたのかは別として、関心の 高さが伺える。

シャウプ博士は1902生まれ、2000年に没(ついこのあいだのようだ)。このとき50歳手 前の少壮の財政学者。日本に世界一優れた税制をつくるという意気込みで、占領下の 日本を数名の経済学者(実働は2名といわれる)と数次にわたり調査し、まとめたのが シャウプ勧告だ。
当時、世界でも最先端の税制理論が理想に燃えて展開された。持論である申告納税制 度(日本はすでにこの制度に舵を切っていたのだが)における直接税体系を強力に奨 めた。

では、「勧告」とはどのようなときに使う、どのような強さのことばなのだろうか ?
  ちょうど今秋の大雨災害で、弟宅に「避難勧告」が発令され、謀らずも、その語感を 体験したので、ちょっと調べてみた。

災害時には行政より該当する地域の住民に3段階の指令が出る。「避難準備情報」「避 難勧告」「避難指示」である。俗にいう「避難命令」というものはない?・・・そうだ 。 「避難準備情報」はこれから災害が起きる可能性があり、避難所開設を進めているの で、お年寄りなどは事前に荷物をまとめ、避難する準備してくださいということ。強 制力はない。
つぎの「避難勧告」は避難所が開設されたので、該当者は移動してほしい。ただしこ れも、強制力はない。
いちばん強力な「避難指示」はそこにいると危険なので、往路注意して指定の避難所 に移動してほしい。強制である。ただし、罰則はないそうだ。

このことから「勧告」とは、レベルでいえば中程度。必ずしも従わなくてよいカテゴ リーに入る。
弟も現実には避難せず、鼻で笑っていた。

実際、日本政府は、シャウプ税制をすべてにおいて取り入れたわけではなく、発布し たもののすぐ取りやめた部分もあり、無視したところもある。
当時、占領軍からはいろいろな指示、命令が出ていたはず。朝令暮改もあったろう。 イケ諾々とすべてにおいて従っていたとも思えない。
これは絶対従わなければならない。これは参考程度でよい。当時の日本人はその対処 方法がよく分かっていたのではないだろうか?

ここでのシャウプ勧告は「勧告」である。「報告」と訳さなかったのは、当時の日本 人は、その加減が「よく分かっていた」からに他ならないのではないだろうか?

そんなことを考えながらの資料鑑賞であった。