石坂税務会計事務所

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マイナンバー雑考

平成27年度の税制改正はあまり大きなものがない。
それより今年度は「マイナンバー」制度の導入に関心が向く。

巷ではいま、この類のセミナーが活発化している。
その取扱者は官庁だけでなく、民間(企業、税理士、金融機関)にまで及ぶからだ。
世の中の関心はどうも個人情報との「絡み」だろう。いわく、「知りえた個人情報は鍵のかかるキャビネット等に保管していなければならない。」「必要性がなくなればただちに廃棄せねばならない。」情報セキュリティの安全性、保護対策ばかり強調され、本来の趣旨とかけ離れてしまっている気がする。
現代はIT技術等の発展により、膨大な情報が、わずかな事務量で、苦もなく集積可能な時代。この利便性に背を向ける手はない。
情報の処理の合理化とプライバシー保護は相反する。その折合いをどうつけるのか。日本ではプライバシー保護のもと、効率化が図られなかった歴史がある。
翻って考えてみると、日本には世界に冠たる戸籍制度があるのだから、何も新しい制度をつくらなくても、これに番号を振る、ナンバーリングすれば簡単にできたような気もするが、そうでもないらしい。
昔、国民総背番号制が叫ばれ、国税もその気になって準備万端、先端部署の人事まで決まり、運用開始直前までいった。が、議員立法で覆ったそうだ。税務当局の苦い歴史。今回はその轍を踏まぬよう、慎重すぎるほどの進め方を行っているやにみえる。

民主党政権の時代、「給付つき税額控除」が叫ばれていた。
これは、税務申告において、現行制度でいう税額控除は、税金がすべて引ききってしまえば終わり、つまり所得税額から税額控除を引いて、ゼロになればこれ以上引けなかったものを、マイナスまで拡大、つまりマイナスぶんを納税者に還付するという制度だ。これにより所得の低い納税者に給付金を配ることができる。いわば弱者救済だ。
ただ、運用面で、所得の高い納税者というのは申告により把握できていたが、所得の低い、もしくはない納税者(ゼロでも納税者と言うべきか? ) は、把握できていなかった。所得がないという証明はむずかしいのだ。そのため、給付金を配ろうにもだれが該当するのか対象者の選定が困難だった。
そこで必要とされたのがマイナンバー制度である。

このとき、全国で説明会が行われていたはずである。
ただ、広告がじゅうぶんでなく、ひっそりとやったため、大部分の国民は知らなかったのではないか?
私も浦和での開催を直前に知りえ参加できたが、同じく、直前に知った少数の人々のうち、商店主、民権派の弁護士さんなどが大反対していた集会だったことが記憶に残る。
北欧ではかなり進んでいて、官公署自体が、限定された地域の、特殊な対象者の情報を民間に売却すらしている。それでもコンセンサスができていて、個人情報にはあたらない(まさに個人情報そのものだと思うが)ということもこの席で聞いた。

北欧といえば、デンマークの制度など、専門書ではない本からの又聞きで恐縮だが、かなり進歩的、という気がする。
企業の経営者は、月5万程度から上の月給を支払うべき被雇用者を雇い入れるときは、マイナンバーを確認して、その番号を国税当局に通知する。
銀行も、12月末において、多額の預金者についてマイナンバーを国税当局に報告する。
税金が高額で可処分所得が小さい、そのぶん学費が無料、医療費が無料、老後の心配のいらない高福祉国家だからこそ、透明性、公平性確保のため、番号制度が必要なのだろう。

日本でも消費税10%の時代がもうそこまで来ている。
ただし、10%にあげたからといって一時しのぎ、1200兆もの政府の借金は到底返せない。
いずれ、しかも近いうちだろう、消費税率15%、20%、25%の世界がやってくる。
これは重いだろう。プライバシー保護ばかり目がいくと、隠すもの、逃れるものも相当数現れてくるにちがいない。世界に冠たる納税制度は、納税モラルはどうなる?
かといって、返さずに居直る(デフォルト)のもどうだろう。今まで先人たちが汗して地道に築き上げた、国の信用にかかわる大きな問題。
国民総力を挙げてなんとか返していかなければ・・・。

そう考えると、マイナンバーでガラス張りの世界も、あながち悪くはないと思えるのだが、どうだろう。